翌朝、私はいつも通りに目を覚ます。
目が少しひりひりするけど別にどうってことでもない。
シャワーを浴びて服を着替えると、いつも通りに喫茶店へと向かう。
今日は雲ひとつない空。潮風は静かに波の音を運んでくる。
途中、私は昨日先輩と会った場所で石を投げてみることにした。
近くに落ちている石を拾い上げて、穏やかにたたずんでいる海に向かって石を投げる。
「えいっ!!」
その石は水面を嫌うようにして五回跳ねて、力尽きて沈んでいった。
私はもう一度拾い上げて投げる。
「えいっ!!」
四回跳ねて、沈んでいった。
その時、ふと私は確信した。
夢に出てきた先輩が喋った言葉。先輩の手の温もり。別れる前に、列車が通りよく聞こえなかったあの言葉。営業で来たと言ったのに、仕事で会う可能性が少ない理由。最後に私の事を苗字で呼んだこと。そして、こうして石を投げれる事実。
なるほどね。私は思った。
そういうことなんだ。
私も、先輩も一緒なんだ。
今度は自惚れじゃない気がする。この手が経験したことが、そうだよと言ってくれている。
私はもう一度石を拾い上げて海に向かい投げてみる。その石は一回跳ねただけで沈んでしまった。
……そうそう何度も上手くはいかない。そういうことなんだって思った。

とりあえずの、これからの私が成すべきことは決まったわけで。でも、焦らないでやっていこう。
時間はたっぷりあるのだから。






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