考えても考えても、そこから先に進むことができないような感覚。
本当の最初の出会いを考えれば考えるほど、行き詰っていくような気がする。

私が知る最初の出会いは中学三年の時と語ったが、実際はもっと前から知っていた。
とは言っても、私は影からこっそりと姿を見ていただけで。話しかけることすら出来ずにいたのだけれども。
そう思い、私は一番最初に先輩を見たのはいつかを思い出していく。
最初の出会いは、そうだ。秋のバスの中だった。
その頃の私は中学二年で、この喫茶店近くのバス停からバスに乗って学校に通っていた。
そうだ。秋だから本を読もうという考えで、私は窓側の席に座って本を読んでいた。ふと、前の席を見ると男子生徒が本を読んでいた。
その本は、私が読んでいるものと同じ本だった。何だかそれが妙に気になってしまった私は、読書に集中できずに彼の後姿をちらちらと盗み見ていた。
バスは学校前に着き、彼は本を閉じて立ち上がる。その時、私は惚れてしまったのだ。
よくよく考えれば、当時私が読んでいた本はその時のベストセラーで、映画化され上映中の作品だった。本を読んでいる人全てがと言うわけではないが、同じ本である可能性は高かったのだ。
だが私はそんなこと考えもせずに、あるいは無意識のうちに排除して、これは何か運命とかそういったものなんじゃないかと考えるに至った。
その後、友人にそれとなく聞いてクラスと名前を知った。先輩が卒業する前には第二ボタンを……と思ったが度胸もなくそのまま見送ることとなった。
結局、私はあの間に先輩と話をすることは出来ず、このまま終わりかな。としょげて帰ったのを覚えている。
そうして三年生になり、行事として高校見学があった。
偶然なのか運命なのか、未だに考えてしまう。あの頃私がもしあのグループに入っていなかったら、と。
そう。高校見学に行った際、案内役だったのが先輩だったのだ。
先輩を見た瞬間、動揺していた私は自分で自分の頬を引っ張ったのを覚えている。
それからだ。私と先輩がよく話すようになったのは。
高校見学に来た子として名前を覚えてもらった私は、何度か受験の事という名目で先輩に相談するようになった。
高校なんてどこでもいいと思っていた私は、先輩の通っていた高校に合格するために必死で勉強した。
夏休み前の模試では合格率が八割と出ていても、私は勉強した。一ミリでも不安要素を減らしたかった。
そして無事に合格できた。合格と判った時、側にいてくれた先輩からおめでとうと言われた時は嬉しかった。
同じ高校に通い出してから、私と先輩の距離はぐんと縮まった。だけれども、私は先輩にアタックすることはできなかった。

しかし、突然先輩はどこかへと行ってしまった。
結局は私と先輩の関係は、友達以上恋人未満だったのかな、何度もそう考え、何度も泣いた。
その後の私は、こんな感じでなあなあと過ごしている。

気が付いたら朝食のサンドイッチはお皿から消えていた。時計を見ると九時半だった。
二時間も喫茶店にいた事になる。
「……どうしようかな」
今日、私はバイトがあるわけでもない。
こういう暇で暇でしょうがない時、私はすることを決めている。
お財布を取り出して小銭を見る。一円玉が入っていたので一枚取り出す。
親指の上に乗せ、弾く。
クルクルクルクルと回転する一円玉を手のひらで受け取めるように握る。
表ならあてもない旅に出る。裏だったら家でじっとしている。
今日はどっちか。握った手のひらを開く。一円玉は、表向きだった。

会計を済ませてバスに乗り、近くの駅へと向かう。
この地域の中では少し大きな駅は、色々な人が忙しく動いていた。
そんな中、私は適当に券売機にお金を入れ、適当に目に付いた運賃の切符を買って、適当な電車に乗る。
今日は何処に着くのか。それは私も判らない。
最近の暇な時はいつもこうだ。このあてもない旅が、好きになっていた。
適当に二本位乗り換えて、降りた駅はとあるビジネス街の駅だった。
いつもの旅とは違う場所だったことに、私は不思議と驚くことはなかった。
それは無意識に先輩に会えるかもしれないと思ったからだろうか。その想いが、ここに連れてこさせたのだろうか。
駅を出ると、目の前には高層ビル群にスーツ姿の男性や女性が町を行き来している姿が飛び込んでくる。
そんな中、私はどこへ行こうとも思わずにただ歩いていく。歩いて風景を見る。
とは言っても、この街はあまりにも単調な彩りしかなかった。
鉄筋コンクリートで作られている、冷たく私たちを高く見下ろす建造物。そして豊かでない表情の人たち。私と通り過ぎる人たちの殆どが、忙しそうだったり疲れているような表情を浮かべていた。鉄の塊は排気ガスを出しながらコンクリートの道を騒がしく走っていて、なんだか色々な意味で息苦しかった。
あんまり、この場所は好きじゃない。そう私は思った。
街を歩く中で、私は先輩の姿をどこかで探していた。だからと言ってこの街に先輩がいると言う確証は何処にもないわけで、二時間ほど歩いたが先輩の姿はどこにもなかった。
私は家へと帰ることにした。
家へと帰った私は、適当な昼食を作って食べて、ベッドに横たわった。



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